どのような商品やサービスにも「便益としての価値」(ベネフィット)というものが存在します。それは私たち消費者は意識しているものもあれば、無意識なものもあるでしょう。
例えば、フランス料理店に行く際、あなたがお店に訪問することで得られる価値は「美味しさ」、「非日常性」、「特別感」、「おもてなし」などではありませんか?このあたりはフランス料理店に行く全ての人に共通する価値であり、意識的に求めているものではないでしょうか。
フランス料理店などの高級飲食店は、この共通する価値以外の価値の提供も差別化の1つになるのではないかと私は考えています。
その例として今回は私が大好きなラクリエールを題材に考えてみます。
【他にはない価値】
私はラクレリエールについては、先述の共通する価値以外に無意識で感じていた価値があって、これが他のフランス料理店との差別化につながり、自分自身を魅了することによってリピートという行動に繋がっていたのだと3回目の訪問あたりで気づきました。無意識が無意識じゃなくはっきり「価値」として認識できたのです。そしてその価値は私がフレンチ以外では顕在意識として常に求めていた価値でした。それを無意識下にラクレリエールで感じていて、それが自身を魅了する結果となったのです。
その価値は一言で言えば「リラクゼーション」になります。私は自身のビジネスの疲労を意識的に軽減する目的で普段からマッサージやスパに行き、自身をリセットしています。しかし、フランス料理に対してそれを求めているつもりは全くありませんでした。純粋に美味しいものが食べたい、しかも自分の右脳を刺激するような芸術的なお皿、コースに触れたいというのが目的でした。ですが、私はラクレリエールでの滞在で確かに安らぎを感じていて「リラクゼーション」という価値を享受していたのです。
では、この「リラクゼーション」の価値は如何にして生み出されていたのでしょうか。
私はフランス料理店に行く時は、以下の図のようなことを考えながら食べています。レストランのコンセプトやシェフの想いを空間、料理・サービスを通じてどのように具現化しているかです。ラクレリエールはこのピラミッドの完成度がものすごく高く、そのピラミッド全体を通して「リラクゼーション」という他のお店にはない価値が生み出されていたと気が付きました。
では、それぞれのピラミッドの階層とリラクゼーションへの繋がりを見ていきましょう。
まず、ラクレリエールのコンセプトやシェフの想い、そして空間を見ていきましょう。
柴田シェフは自身の幸せや感謝を表現したいと考えていますし、その場所は森林に降り注ぐ陽の光を感じる暖かく、優しい空間です。
ラクレリエールに行くとわかりますが、どの席に座ってもキッチンを見ることはできません。柴田シェフはかつて、ライブ感を出すためにダイニングとキッチンを遮る壁をぶち破ってはどうかとの提案を受けたことがあるそうです。実際にライブ感を売りにするお店は多いですよね?でも柴田シェフはそれはうちを好きでいてくれるお客様が望むものではないと断ったそうです。コンセプトやシェフの想い、また白金という立地性からしても、壁をぶち破ってしまってはお店のベースが崩れてしまうと私も思います。その壁のおかげでお店の中は非常に静かですし、私たちは一皿一皿に込められた想いに集中することができるわけです。そしてその優しい空間の中でシェフの想いを受け止めていると時の流れが変わります。とても時間がゆっくりと流れます。この状態が安らぎ、リラクゼーションという価値を生み出しています。
そして実際のコースにおいても安らぎ、リラクゼーションを感じられるポイントが散りばめられています。少し見ていきましょう。
以下3枚の連続した写真をご覧ください。これはコースの冒頭です。実際に席に座っている気持ちで想像してください。
プレゼンテーションプレートはラクレリエール(森林に降り注ぐ陽の光)というお店の名前にふさわしく自然味溢れる1枚の木の板の上に白いナプキンと非常にシンプルです。そしてナプキンを取ると、
「一皿一皿に喜びと感謝を込めて…」
初めて私が訪れた時、思わず笑みがこぼれてしまったことを覚えています。肩の力が自然に抜けるのと同時に森への扉を開いたような感覚になりました。
さらに3枚目の写真のアミューズはブータンノワールのプチハンバーガーです。これをアミューズにしている真意は柴田シェフ本人に聞かないとわかりませんが、最初にハンバーガー、すなわちとても私たちに馴染みの深い食べ物を提供することで、お店側からの歓迎と共に緊張をほどく意味合いがあるのではと個人的には考えています。
「このひとときを楽しんで欲しいから肩の力を抜いてリラックスして楽しんでくださいね!」そんな柴田シェフの想いが込められているのではないでしょうか。
この導入の時点で癒されてます。そしてゆっくりとした時間が流れ始めます。
すっかり癒されながらコースが進んでいくのですが、「なんか居心地良すぎて眠たくなってきちゃったー」、「ほんと幸せ」っていう他のお客さんの声が良く聞こえてくるんです。あぁ、自分だけじゃないんだな、ここにくる人はみんなフランス料理を心から楽しみ、そして癒されているんだなということが良くわかりました。
実はメインの料理を食べ終わった時点で毎回既に2時間を軽く過ぎているんです。でも時間の経過を全く感じないのでそんなにお店にいたのかといつも思います。
初めて来たときは、こんなゆっくり食べてしまって申し訳ないなと思ったものです。
普段ラクリエール以外のフレンチに行くと、もうデセールが終われば次の予定のことを考えたり、お店から出ることを意識しています。
しかし、ラクリエールのカフェ・ウ・テ、プティ・フールはそんな気分にはさせず、「時間が許すならもっとゆっくり休んでいったください」とのメッセージが込められているような内容です。
カフェは小瓶の中の香りを楽しみながら自分で選びます。そして、プティ・フールの魅せ方は写真のとおりです。高級ホテルのアフタヌーンティーがここから始まるのかというような感覚です。私はよくリッツカールトンなどでリラクゼーション目的も兼ねてアフタヌーンティーに行きますが、ラクレリエールに行くと、その効果されも得られてしまうのです。
すっかり良い気持ちになり、いつも12時に予約してお店を出るのは15時前後とかになります。そしてお店を出た時の気持ちは「美味しかったー」だけではなく、「幸せだったー」、「癒されたー」です。
この「癒し」の感覚は他のレストランでは味わることができない、ラクレリエールのみで私が感じることができる「価値」になります。そしてこの「価値」こそが私に何度でも足を運びたいと思わせる強い動機になっています。
ここでまとめてみます。
高級レストランは共通の価値以外の独自の価値を提供することが差別化の1つになる。ラクレリエールを例にするとその差別化に繋がる価値は「リラクゼーション」であった。この差別化された価値が私をリピートさせる強い動機になっている。
ということです。
今回のケースでは「リラクゼーション」が差別化への価値になっていますが、差別化への価値はお店それぞれで違うと思います。ラクレリエールの場合は、お店のコンセプトやシェフの想いを追求していった結果、自然と生み出されていた価値になりますし、大切なことはそういったコンセプトや想いを空間、料理、サービスを通じて如何に具現化していくかだと思います。その意味では、お店をオープンする段階での思考が如何に大切かということですね。
この記事はあくまで私の消費行動を分析したものであり、故にまとまりのない記事になってしまいましたが、「便益としての価値」にフォーカスすることはレストラン経営に限らず非常に重要なことです。お店が提供している価値をたまには改めてゆっくり考えてみるのもありかと思います。
ちなみにですが、ラクレリエールにもし「リラクゼーション」がなかったら、私はリピートするかともし聞かれたら、答えは
「それでも行く」
になります(笑)。
それは行けばわかります。共通する価値に「美味しさ」がありますよね?同じ価値でもレベルがあるということです。是非「美味しさ」そのものも楽しんでいただければと思います。
例えば、フランス料理店に行く際、あなたがお店に訪問することで得られる価値は「美味しさ」、「非日常性」、「特別感」、「おもてなし」などではありませんか?このあたりはフランス料理店に行く全ての人に共通する価値であり、意識的に求めているものではないでしょうか。
フランス料理店などの高級飲食店は、この共通する価値以外の価値の提供も差別化の1つになるのではないかと私は考えています。
その例として今回は私が大好きなラクリエールを題材に考えてみます。
【他にはない価値】
私はラクレリエールについては、先述の共通する価値以外に無意識で感じていた価値があって、これが他のフランス料理店との差別化につながり、自分自身を魅了することによってリピートという行動に繋がっていたのだと3回目の訪問あたりで気づきました。無意識が無意識じゃなくはっきり「価値」として認識できたのです。そしてその価値は私がフレンチ以外では顕在意識として常に求めていた価値でした。それを無意識下にラクレリエールで感じていて、それが自身を魅了する結果となったのです。
その価値は一言で言えば「リラクゼーション」になります。私は自身のビジネスの疲労を意識的に軽減する目的で普段からマッサージやスパに行き、自身をリセットしています。しかし、フランス料理に対してそれを求めているつもりは全くありませんでした。純粋に美味しいものが食べたい、しかも自分の右脳を刺激するような芸術的なお皿、コースに触れたいというのが目的でした。ですが、私はラクレリエールでの滞在で確かに安らぎを感じていて「リラクゼーション」という価値を享受していたのです。
では、この「リラクゼーション」の価値は如何にして生み出されていたのでしょうか。
私はフランス料理店に行く時は、以下の図のようなことを考えながら食べています。レストランのコンセプトやシェフの想いを空間、料理・サービスを通じてどのように具現化しているかです。ラクレリエールはこのピラミッドの完成度がものすごく高く、そのピラミッド全体を通して「リラクゼーション」という他のお店にはない価値が生み出されていたと気が付きました。
では、それぞれのピラミッドの階層とリラクゼーションへの繋がりを見ていきましょう。
まず、ラクレリエールのコンセプトやシェフの想い、そして空間を見ていきましょう。
柴田シェフは自身の幸せや感謝を表現したいと考えていますし、その場所は森林に降り注ぐ陽の光を感じる暖かく、優しい空間です。
ラクレリエールに行くとわかりますが、どの席に座ってもキッチンを見ることはできません。柴田シェフはかつて、ライブ感を出すためにダイニングとキッチンを遮る壁をぶち破ってはどうかとの提案を受けたことがあるそうです。実際にライブ感を売りにするお店は多いですよね?でも柴田シェフはそれはうちを好きでいてくれるお客様が望むものではないと断ったそうです。コンセプトやシェフの想い、また白金という立地性からしても、壁をぶち破ってしまってはお店のベースが崩れてしまうと私も思います。その壁のおかげでお店の中は非常に静かですし、私たちは一皿一皿に込められた想いに集中することができるわけです。そしてその優しい空間の中でシェフの想いを受け止めていると時の流れが変わります。とても時間がゆっくりと流れます。この状態が安らぎ、リラクゼーションという価値を生み出しています。
そして実際のコースにおいても安らぎ、リラクゼーションを感じられるポイントが散りばめられています。少し見ていきましょう。
以下3枚の連続した写真をご覧ください。これはコースの冒頭です。実際に席に座っている気持ちで想像してください。
プレゼンテーションプレートはラクレリエール(森林に降り注ぐ陽の光)というお店の名前にふさわしく自然味溢れる1枚の木の板の上に白いナプキンと非常にシンプルです。そしてナプキンを取ると、
「一皿一皿に喜びと感謝を込めて…」
初めて私が訪れた時、思わず笑みがこぼれてしまったことを覚えています。肩の力が自然に抜けるのと同時に森への扉を開いたような感覚になりました。
さらに3枚目の写真のアミューズはブータンノワールのプチハンバーガーです。これをアミューズにしている真意は柴田シェフ本人に聞かないとわかりませんが、最初にハンバーガー、すなわちとても私たちに馴染みの深い食べ物を提供することで、お店側からの歓迎と共に緊張をほどく意味合いがあるのではと個人的には考えています。
「このひとときを楽しんで欲しいから肩の力を抜いてリラックスして楽しんでくださいね!」そんな柴田シェフの想いが込められているのではないでしょうか。
この導入の時点で癒されてます。そしてゆっくりとした時間が流れ始めます。
すっかり癒されながらコースが進んでいくのですが、「なんか居心地良すぎて眠たくなってきちゃったー」、「ほんと幸せ」っていう他のお客さんの声が良く聞こえてくるんです。あぁ、自分だけじゃないんだな、ここにくる人はみんなフランス料理を心から楽しみ、そして癒されているんだなということが良くわかりました。
実はメインの料理を食べ終わった時点で毎回既に2時間を軽く過ぎているんです。でも時間の経過を全く感じないのでそんなにお店にいたのかといつも思います。
初めて来たときは、こんなゆっくり食べてしまって申し訳ないなと思ったものです。
普段ラクリエール以外のフレンチに行くと、もうデセールが終われば次の予定のことを考えたり、お店から出ることを意識しています。
しかし、ラクリエールのカフェ・ウ・テ、プティ・フールはそんな気分にはさせず、「時間が許すならもっとゆっくり休んでいったください」とのメッセージが込められているような内容です。
カフェは小瓶の中の香りを楽しみながら自分で選びます。そして、プティ・フールの魅せ方は写真のとおりです。高級ホテルのアフタヌーンティーがここから始まるのかというような感覚です。私はよくリッツカールトンなどでリラクゼーション目的も兼ねてアフタヌーンティーに行きますが、ラクレリエールに行くと、その効果されも得られてしまうのです。
すっかり良い気持ちになり、いつも12時に予約してお店を出るのは15時前後とかになります。そしてお店を出た時の気持ちは「美味しかったー」だけではなく、「幸せだったー」、「癒されたー」です。
この「癒し」の感覚は他のレストランでは味わることができない、ラクレリエールのみで私が感じることができる「価値」になります。そしてこの「価値」こそが私に何度でも足を運びたいと思わせる強い動機になっています。
ここでまとめてみます。
高級レストランは共通の価値以外の独自の価値を提供することが差別化の1つになる。ラクレリエールを例にするとその差別化に繋がる価値は「リラクゼーション」であった。この差別化された価値が私をリピートさせる強い動機になっている。
ということです。
今回のケースでは「リラクゼーション」が差別化への価値になっていますが、差別化への価値はお店それぞれで違うと思います。ラクレリエールの場合は、お店のコンセプトやシェフの想いを追求していった結果、自然と生み出されていた価値になりますし、大切なことはそういったコンセプトや想いを空間、料理、サービスを通じて如何に具現化していくかだと思います。その意味では、お店をオープンする段階での思考が如何に大切かということですね。
この記事はあくまで私の消費行動を分析したものであり、故にまとまりのない記事になってしまいましたが、「便益としての価値」にフォーカスすることはレストラン経営に限らず非常に重要なことです。お店が提供している価値をたまには改めてゆっくり考えてみるのもありかと思います。
ちなみにですが、ラクレリエールにもし「リラクゼーション」がなかったら、私はリピートするかともし聞かれたら、答えは
「それでも行く」
になります(笑)。
それは行けばわかります。共通する価値に「美味しさ」がありますよね?同じ価値でもレベルがあるということです。是非「美味しさ」そのものも楽しんでいただければと思います。